ポスドクが考える研究室選びのコツその2 (生物・実験系・学位取得を目指すひと向け)
さて、今日は引き伸ばしに引き伸ばしてしまった研究室選びのコツその2です。
学位取得を目指す人に向けて書いたエントリーです。
研究室選びがなんで大事かは、昨日のエントリー
をご覧くださいませ。
私が研究室を決める際に抑えたほうが良いと思うポイントは以下のとおりです。
私が考える研究室を決める際のポイント
- 自分のやりたいことができるラボかどうか
- 大学、研究機関の規模や質
- 学位取得要件 〜生物系で学位要件が査読論文2報のところはやめとけ〜
- ボスの年齢、定年までの年数
- 研究室の規模 〜ビッグラボと小規模ラボのメリット・デメリット〜
- スタッフ(特に助教)の人数と研究能力
- 他研究室との交流があるか
- 博士課程まで行った学生が学位を取得できているか、進路は?
- 学生と話した時の感触
一個ずつ見ていきます。
自分のやりたいことができるラボかどうか
言わずもがなですが、まずはこれを第一に考えるべきです。
今後5年間付き合っていくテーマです。詳細に、具体的に研究テーマが決まっていなくても、漠然とした「自分が知りたいこと」が、ラボの「知りたいこと」と一致しているかどうかが重要です。
また、扱っている生物が何なのかも重要です。
モデルとしている実験動物によって、理解できる現象の程度が変わってきます。
マウスなどの高等動物を扱う場合、
- ヒトとの相同性が高く臨床に応用できる可能性が高まる
- 情動や社会性行動など、高度で複雑な現象の理解が深まる
というメリットが有ります。一方で酵母などを扱った場合には、
- 酵母からヒトまで広く保存された生命に必須と思われる現象を相手にできる
- 単細胞のため現象をシンプルに、より厳密に理解できる
- 生活環が短く実験速度がはやい
などの利点があります(他にも色いろあるでしょうが)。また、非モデル生物を使う場合には、まだ誰もマークしていない思わぬお宝に遭遇することがあるかもしれません。自分がどのレベルの生命現象を、どの程度の厳密さで理解したいかを考えて決めると良いと思います。
もしもやりたいことがかなり具体的に決まっている場合には、
研究室見学の際に自分のやりたいことができるかどうか聞いてみましょう。
ボスがやりたいテーマを学生に割り振ってやってもらう研究室の場合、
自分の好きにテーマ設定ができない可能性があるので、
研究室を決める前に自分のやりたいことに対してボスがどう反応するかは探っておく必要があります。
大学、研究機関の規模や質
これもなかなか重要な要素です。
おすすめは、「できるだけ規模が大きく学位取得者を多く排出している大学に行く」ことです。
もちろん小規模大学にも良い研究をしている研究室はありますし、
「学部時代に育ててくれた恩があるので、規模の小さい大学だけれども院試をせずに残りたい」という人もいるかもしれません。
でも、いい大学には、良い人材が集まっています。一緒に研究する仲間は、お互いに刺激し合いながら研究の質を高めていく良き同士、ライバルになります。
なるべく博士課程まで残る学生が多いところを選ぶべきだと思います。
規模の大きさも重要だと思います。一つには、しっかりとした学生相談室なりハラスメントセンターが設置されているという理由からです。
長い研究生活、変なトラブルに巻き込まれたり心が落ち込む可能性はどんな人にもあります。「自分だけは大丈夫」なんて思っては行けません。いざとなった時に駆け込めるところがきちんと設置されているところを選びましょう。
もう一つは、研究室が多いほど研究室同士の交流も多いという理由からです。他分野の研究を知ることは、自分の研究に対するモチベーションを上げてくれるだけでなく、思わぬところから新たなアイデアが生まれてきたりします。
後は、万が一研究室が合わなくて研究室を変えることになった時に、選べる選択肢が増えるというのも大きな魅力です。
学位取得要件 〜生物系で学位要件が査読論文2報のところはやめとけ〜
研究室を決める際には学位取得要件を先輩に聞いてみてください。
生物系の学科の多くは、学位取得の要件に「論文が査読付き英語論文雑誌に掲載される、または掲載予定になる」ことを定めています。Nature Cell Scienceが論文雑誌の最高峰ですね。
1本も掲載されなくても、学位審査さえ通れば学位が取得できる学科もありますが、多くの生物系学科では必要論文数は1本と定められているはずです。
で、極稀に査読論文2報を要求してくる学科があります。ここは絶対やめとけ。
査読論文1本通すのも大変なのに、査読論文2報を5年間で載せなければならないとなるとかなりきついです。取りうる選択肢は2つ。
留年して在学期間を伸ばすか、しょぼ雑誌2つに投稿するか
です。
論文がどの雑誌に掲載されたかというのは生物学者にとってステータスになります。
絶対しょぼ雑誌で妥協するのはやめるべきです。
2本を1本にまとめて投稿したらもっと格の高い雑誌に出せるのに、
何が嬉しくて2本に分けて論文を書かねばならんのでしょうか?
ショボい2本より質の高い一本の論文を書いたほうが良いですよ。
どの大学のどの学科が何本の論文掲載を要求しているかは、ここに書くのははばかられるので自分で調べてくださいませ。
っていうか大学や学科によって学位要件変わるっておかしくねぇ?(ブツブツ)
ボスの年齢、定年までの年数
「定年まで後5年だからギリギリ学位取れるよー」という教授のラボはお勧めしません。ボスは、アカポス就職にも力を持っている場合が多いですから、
学位取得後すぐにほっぽり出されるより、数年間教授として在籍し続けてくれるボスのところのほうが安心して研究に取り組むことができます。
研究室の規模 〜ビッグラボと小規模ラボのメリット・デメリット〜
研究室の規模については、ビッグラボ、スモールラボ、双方にメリット、デメリットが有ります。
スモールラボの特長としては、
- ボス自身が研究を指導してくれる場合が多い
- 比較的若い研究主催者の元、挑戦的でわくわくする研究課題に取り組める
- 研究室の成熟に貢献することができる
- ボスの人脈が少ないために研究室が閉鎖的になりがちである
- 構成員が少ないため、研究室内での考え方が偏りがちである
などがあげられると思います。周りの偉い先生達を見ていると、研究室立ち上げたての黎明期に、挑戦的な、リスクのある研究に果敢に取り組んでいって宝物を持って帰ってきた人が多い印象を受けます。一方、やや閉鎖的な空気になっているところも多く、一度人間関係がこじれると \(^o^)/ ヤバイ。
ビッグラボの特長としては、
- ボスはカネ集めに奔走しているためあんまりラボにいない
- 研究自体は成熟しているため、次にやるべき課題が明確に定まっている場合が多く、リスクを取らない無難な研究をしている人が多い。(多分予算の関係?)
- 能力のあるスタッフやポスドクが揃っている。
- 他研究室や他分野との交流が盛ん
- ボスの力でポスドク先を見つけやすい
などが挙げられます。まれにかなり挑戦的な課題に取り組むボスもいますが、多くは「守りに入っている」ひとが多い気がします。多分年齢のこととか、取ってきた予算申請のこととか、大人の事情があるのでしょうが子供の私にはちょっとわかりません。この研究室のいいところは、ボスの力でいろんな出会いを経験できることです。私はこちら側の人間ですが、本当にいろんな分野の先生方とお話する機会に恵まれて楽しい研究生活を遅れています。
あと、多少一部で人間関係が変なことになっても、スタッフが複数いるし、人と人とのつながりが小規模ラボに比べると希薄なのでなんとかなります。
どっちも魅力的だと思うので好きに選んでください。ただし、女性の学生には、研究主催者が男性のスモールラボはあまり勧めません。
真面目そうなボスに見えても、一歩距離のとり方を間違えると…\(^o^)/ ヤバイ。
スモールラボは人間関係が密になりやすいので、ボス以外にもラボの構成員なんかと変な男女関係のもつれに発展する可能性があります。マジで気をつけてください。
スタッフ(特に助教)の人数と研究能力
実際、研究室に配属された時に一番密な関わりを持つのは多分助教とかドクターの先輩とかポスドクとかです。教授は大抵、お金を集めてくるために奔走していますので、直接指導を受けることは殆ど無いでしょう。
そうするとスタッフの能力はとても重要です。
研究室訪問時に色々聞いてみて、信用に足る人物か、研究遂行能力は十分そうか見極めましょう。
助教が筆頭著者の論文がちゃんと出ているかも確かめましょう(この辺は分野によるのでなんとも言えない部分もあるが)。
ちなみに、ラボから出てる論文のほとんどの筆頭著者がボス、みたいなところもありますが、こういう研究室はどうかと思いますね…。学生を筆頭著者として論文を出させてもらえるのか、とても不安になります。
他研究室との交流があるか
家庭でも研究室でも、閉鎖的で社会とのつながりのない場合は何か問題を抱えている場合が多いです。共同研究を積極的に行っているか、あるいは同じフロア内の学生同士、他研究室との交流がありそうかどうかを見てみてください。
共同研究を行っている研究室は私はかなり魅力的だと思っています。新学術領域研究とかで、いろんな分野の人と交流できるのは本当に楽しいしおすすめです。
博士課程まで行った学生が学位を取得できているか、またその進路
博士課程に行った学生が学位を取得できずに中退するということは、
教授に指導能力が無いことを表しています。
中には家庭の事情とか、他に夢が見つかったなどのポジティブな理由で学位を諦める人もいると思いますが、その数が多いようだと警戒対象です。
進路は、そのままあなたの将来の進路の参考になります。聞いてみましょう。
学生と話した時の感触
多くのブラックラボの学生は、「うちのラボはやめとけ」と言ってくれます。
楽しそうに実験しているか、自分が一緒に研究した場合に楽しく研究できそうか、
研究室に身をおいた自分の姿を想像しながら話を聞いてみるのが良いと思います。
同じフロアの複数研究室に見学に行って、「あのラボどう?」と聞くのもかなり有効な手です。
終わり。長くなってしまいました。読みづらかったらすみません。
実際入ってみないとなんとも言えないところもあるのですが、
少しでも参考になればと思って書いてみました。
ちゃんと吟味しても後悔することはありますが、吟味して選ぶことで、壁にぶつかった時に自分を納得させることができるはずです。
では良い研究室ライフをお送りください。
おわり