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つなぽんのブログ

生物学者♀のたまごつなぽんのポスドク日記。

日本の大学はどこへ向かうのか【アジア大学ランキング2016】

あまりこういう大学経営的なことに口をだす身分では無いのだけれど、

大学ランキングが発表されて、

日本の大学が順位を落としたという記事をみて、

そして大学ランキングの評価基準をみながら、

文科省が推し進めている産学連携はおそらくこのランキングを意識したものなんだろうな」
という気付きがあって、思うところがあるので記事にしてみる。

 

アジアの大学ランキング、日本の大学は順位を落とす

NHKの記事を貼っておきます。

www3.nhk.or.jp

 

この大学ランキングのソースとなっているのはこちらです。

www.timeshighereducation.com

1位のシンガポールのNUSを筆頭に、シンガポール、中国、香港の大学が上位を独占しています。

一方で、日本のトップである東京大学は7位、関西のトップ、京都大学は11位、東北大23位、東工大24位となっており、低調気味。

元の記事の総評では、専門家がこう指摘しています。

“Japan is paying the price for two decades of constrained university funding while China has built the C9 group [an alliance of nine elite universities] through the 985 programme,”
"Japan’s special funding programmes for global competition and internationalisation are on a much smaller scale and operate as compensation for underfunding rather than creating new value."

つまり、中国に比べて日本はこの20年、大学にかける資金を縮小していて、新しい価値を想像するには資金がたりないようだ、と言っているみたいです。

もちろん、それはあると思います。
もっとお金があれば、教授の給与も上がって海外から優れた研究者をじゃんじゃん招致できるでしょう。そうすれば日本の大学ランキングは上位に行くはずです。

でも、私はそれだけじゃなくて、どうもこのランキングで評価される大学の力と、
日本人がイメージする大学がマッチしていないような気がするんですよね。そのせいで、日本のランクは他のアジアの大学に比べて低いのではないかと。

 

日本が弱いのは国際化、引用、産業化

このサイトのmethodologyのところに書いてあるとおり、

このランキングは

  • Teaching (the learning environment)
  • Research (volume, income and reputation)
  • Citations (research influence)
  • International outlook (staff, students and research)
  • Industry income (knowledge transfer)

 

の5つの指標をもとに算出されています。

 

日本のトップである東京大学は、このうちTeachingではハイスコアをつけていますし、Researchも比較的高いスコアです。

一方で、

Citation (被引用), International outlook (国際化), Industry income (産学連携) は他の上位大学に比べて低くなっています。

 

Citation (引用)

これは、大学が出した論文が何度引用されたかを基準に付けられたスコアです。分野ごとにノーマライズした、と書かれていますが、その詳細については書かれていませんでした。

*1
この指標は、科学技術に特化した大学で高くなるようです。university of science and technologyと銘打たれた大学が上位に来ています。
私の感想としては、実学を重視するほど、ここの指標は高くなるのでは無いかと思います。分野ごとにノーマライズと言っても限界がありますからね。生態学一つとっても、気候変動に関する地球規模の研究と、日本の一地方の生態系の研究だったら前者の方が引用は多くなるでしょうが、どちらも重要な研究だと思います。
日本語研究なんかはこの指標を押し下げるでしょうね。そういう点で、総合大学は不利かもしれません。東工大に頑張って欲しい所。

 

 

International outlook (国際化)

これはわかりやすいですね。海外の教授や学生がどれくらい留学に来ているか、それから海外との共同研究がどれくらいあるかが指標となっています。
シンガポール、香港は英語話者が多いのでスコアが高いです。あと、ここのスコアが高いのはカタールUAEなど中東の大学。とにかく全てに共通するのはイギリスの植民地だったことですね。英語話者が多ければ多いほど、この指標は高くなるようです。


Industry income (産学連携)

 これは、それぞれの機関が産業からどれくらいの研究費を稼いでいるかの指標…らしいです。patent(特許)については特に記述がなかったので、一体どういうふうに大学が産業からお金を稼ぐのかよくわからんのですが(すみません)、大学が製品化に関わってその見返りを受取る、みたいな感じでしょうか?それとも、企業が大学の研究のパトロンになっていることを指標としているのか。。。
この指標が高いのは韓国、中国、トルコの大学で、スコアが満点の100のところがいくつもあります。やっぱりこの指標よくわからない。。。

とにかく産業界との関連が強いほど指標が高くなるというのは間違いないのではないかと。

 

日本の大学のイメージはこの大学ランキングとマッチしてない…?

ここまで読んでみると、この指標ってかなり実学重視で、

すぐに産業や医療にフィードバックを返せる研究が高く評価されやすい傾向にあると思うんです。引用回数も、産業化に近くなるほどよく引用されるようになりますし。研究人口も増えますしね。

一方で基礎研究はあまり評価されない指標になっているかな、と思います。

 

でも、考えてみると、日本の大学って、実学を重視する感じじゃないと思うんですよ。

寧ろ、すぐに社会に還元できるような研究は企業でやって、

そうじゃない、遠い未来を見据えた研究を、大学でやってほしいと思っている日本人って多いのではないかと思うんですけど違うでしょうか?

 

日本の私大として有名な早稲田と慶應。この早慶の校歌はけっこう広く親しまれてて、

母校じゃない人でも歌詞を知っている人は多いと思います。

慶應の塾歌には「文化の護り」

そして早稲田の校歌には「学の独立」

という歌詞が刻まれています。

私はこれらの言葉は、日本の学問に対するイメージをよく表していると思うんです。

すぐに役立てるための学問ではなく、

教養としての、日本の文化を守るための学問、

そして実学から離れた、独立した学びとしての学問、

それが日本が古くから大学に求めてきた学問の在り方なのかな、と。

私はこれに、日本の研究の強みとして裾野の広さも 加えたいのですが。

 

これらの特長は、いずれも大学ランキングでは評価されない部分では無いかと思います。そして、ちょっと国粋主義的かもしれないですが、私は日本の大学の良さはここにある、と思っているんですよね。

 

国際化は進めるべき

他に日本が弱いのは国際化ですが、ここはもう少しなんとかした方がいいと思います。

政府は留学生を増やすために日本に留学する外国人に金銭的補助を行っているみたいですが、私は寧ろ外国からトップレベルの研究者や教授を指導的立場で招致すべきだと思いますね。

そうすれば、日本人の教授と生徒が何故か英語で議論したり発表したりする無意味な時間が減るだろうし、学生の英語学習へのモチベーションも上がるでしょう。

なによりかにより、教授を日本語話者に限定しないことで、

より多くの研究者の中から優れた教授陣を選ぶことができます。

 

日本の大学はどこに向かうのか

最近の文科省の動向を見ていると、かなりこの大学ランキングを意識しているのではないかと思います。

やたらと国際化、産学連携を推してきますし。

理学部にもですよ!?

 

でも、それって結局、日本の大学文化をそぎ落としてしまうことになるんじゃないかと心配です。

 

私は日本の大学のランキングを低予算で上げることはそんなに難しくないと思います。理学部を潰して、日本文化の研究を潰して、基礎研究やローカル生態学を潰して、

引用回数が多くて産業にすぐに利用できそうな研究に絞れば東大の順位も上がるでしょう。事実、シンガポールの研究はかなり実学に特化している印象があります。

でも、そんなの長くは続かないでしょうし、なによりそれを望んでいる日本人は多いのか…疑問です。*2

 

もし、日本政府が、これまでの日本の学問の在り方を見なおして、とにかく大学ランキング上位を目指すというのなら、寂しいですがまぁそれも一つの選択肢かもしれません。

でも、いまの、日本の理想の大学像があやふやなまま、教授陣や学生がなんのビジョンも共有できずに政策を打ち出していたのでは、

お金も時間も無駄になってしまうのでは無いでしょうか。

 

日本が、日本のマスコミが、大学ランキングにとらわれて、

日本の学問を見失うことがないよう、願っています。

私は、日本には、文化の護りたる学問、そして学の独立を大切にする国であって欲しいと思っています。

 

おわり。

 

ご意見等、歓迎いたします。コメント欄、ブコメツイッター、などを介してご指摘いただければ幸いです。

*1:

引用回数は分野によってものすごくばらつきがあります。医療系、薬学系雑誌の引用数はすごく多いです。こういった内容を扱う雑誌の中には、被引用回数の指標であるインパクトファクターが100を超えている雑誌もあります。非医療系の生物学だとめちゃめちゃ良くて40くらい。普通は10前後です。

 

ほかの分野には明るくないですが、数学とかだと1あれば良いほうじゃないですかね。
これくらい分野に違いがあるものをうまく平均化しました、と言っています。

*2:シンガポールは人材の供給元が外国なのであのスタイルで長年に渡り研究の質を維持することができると思います。NUSの教授陣に占めるシンガポール人の割合はとても小さい。