つなぽんのブログ

生物学者♀のたまごつなぽんのポスドク日記。

専門知識と消費者判断の話 ~DNAを含まない食品?~

ツイッターのアンケート機能、面白いですよね。

私は今まで使ったことがなかったのですが、少し面白い話を聞いたので、

確かめたくなって、昨日から今日(2016年5/30日 午前3:00頃〜6/1 午前3:00頃)にかけて、フォロワーさんの協力を得てアンケートをさせていただきました。

 

質問① 原材料に遺伝子組換え生物を含む食品には、きちんとその旨を明記して欲しいですか?

 

質問② 原材料にDNAを含む食品には、きちんとその旨を明記してほしいですか?

 

 

投票期間は24時間に設定しました。

どんな結果になるでしょうか?わくわくしながら待っていたら…

 

結果はこのようになりました。

 

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なななんと!24時間で1000人以上の、延べ2000人以上もの方がこのアンケートに参加してくださいました!投票してくれた方、RTしてくれた方、本当に有難うございました!

 

私の2つの質問に混乱した方も多かったようです。特に、質問②のDNAの表示に関する質問は、???マークが浮かんでいる人もかなり散見されました。

質問②だけRTされた方も居て、一層混乱を助長してしまったようです。

うーむ、、、ツイッターアンケートの運用難しい。

 

DNAを含む食品、含まない食品

質問②の質問は、混乱するのもわかります。DNAが入っている食品?え?って。

実は「え、質問①と②の内容、同じじゃないの?」というコメントとともにRTしてくださった方もいらっしゃいました。

ので、少し解説をしたいと思います。

 

DNAを含む食品にはどんなものがあって、DNAを含まない食品にはどんなものがあるでしょう?

 

DNAを含む食品には、以下の様なものがあります。

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フリー写真ぱくたそさんからお借りしました。

野菜や肉、魚、果物、米やコムギなんかにもDNAは含まれていますね。

 

え!それって、つまり食品の全部じゃん!!

そうです。

動物は、他の生き物を食べないと生きていけません。

ベジタリアンだろうがなんだろうが、動物である限り、肉や野菜などのほかの生き物を食べて生きているんです。

そして、生き物には、例外なくDNAが含まれています。

DNAがないと、生き物は、体の材料となっているタンパク質を作れないし、体のメンテナンスもできません。私達を含むいきものの体は、「細胞」というブロックが集まって作られているのですが、そのブロックの一個一個にDNAが入っているんですよ!動物だけじゃなくて、植物も同じです。だから、食品にDNAが入っているのは当然のことなんです。

 

DNAが含まれていないわけじゃないけど、すごく少ないだろうと思うのは、

塩や砂糖、味の素などです。それから植物油やバターなどの脂肪酸。私の嫌いな人工甘味料にもDNAは含まれていないですね。あとは色素とか水。これら、細胞を持っていない化学物質たちはDNAを含みません。

DNAの含有量が少なそうな食品として私がぱっと思いつくのはこれくらいかな〜。

 いずれにせよ、普通の食品に使用されている調味料は生物から抽出されている場合が多いと思うので、大体の食品にDNAは入っていると思います。あと、絶対何かしらの雑菌は少数ながらついてます。DNAを口に入れずに食べ物を食べるのは不可能かと思います。

 

というわけで、食品にラベルするまでもなく、あまねく食品にDNAは入っているんです。わかっている人には何この質問?って感じだったと思います。混乱させてすみません。

 

寄せられたコメント達

参考までに、RTとともにコメントされた内容を見てみましょう。*1

「は?DNAを含まない食品って何??」
「この人、高校の生物の教科書読みなおしたほうが良いんじゃない?」

「え、生き物って細胞でできてて、細胞の中に核があって核の中にDNAがあるんだと思ってたけど違うの?」

DHA*2の間違いか?」

 

はい、仰るとおり。仰るとおりなんだけど…!!アンケート終わってからつぶやいて欲しかったな。。。

一方でこんなコメントも見受けられました。

遺伝子組み換え食品は健康に悪そうだけど、DNAは健康に良さそう」

「DNAは頭が良くなりそう」

こちらはサンプル数がかなり少なかったのですが、DNAに対して好印象を抱いているようです。健康効果がよく取り沙汰されている DHAに響きが似ているからでしょうか?

 

 

 

実はアメリカの研究でも、8割の人が「DNAを含む食品に表示を明記して欲しい」と答えていた。

 

実は、私が今回のアンケートを取ろうと思った理由は、この論文を読んだからなのです(有料です)。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27199295

FASEB J. 2016 May 19. pii: fj.201600598. 
What consumers don't know about genetically modified food, and how that affects beliefs.
McFadden BR, Lusk JL.*3

 

何故か無料でPDFが落ちてました。

http://ageconsearch.umn.edu/bitstream/235325/2/Manuscript%20Text%20File.pdf

 

この記事の中で、私がした質問と同様の質問をしています。そして答えはこちら。

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*4

 

この研究では、被験者の84%が遺伝子組み換え食品の告知義務を求めています。また、被験者の80%がDNAを含む食品の告知義務を求めています。 

私はこれを見た時、

DNAの表示を義務付けて欲しい人が圧倒的に多いという事実にかなり衝撃を覚えました。

 遺伝子組み換え植物の研究者にかかわらず、生命科学系の研究者でDNAの含有食品に告知義務を求める人は居ないと思います。多分0です。少ない、とかじゃなくて0人だと思います。

 他方、一般消費者は8割がDNA含有食品の告知義務を望んでいます。

アメリカの研究者と一般消費者との間の知識の乖離が浮き彫りになったという点で、この研究はとてもおもしろい研究だといえるのではないでしょうか?

 

アメリカの消費者は食品の安全性を専門家に決めて欲しがっている?

この論文で明らかになったもう一つ面白い点は、多くの被験者が、いざ、遺伝子組み換え作物を含む食品についてラベルするかどうかを決定する段になったら、

識者にその決定権を委ねようと考えていた点です。

 

遺伝子組み換え作物の告知義務について、どのように決定したらよいか、という質問に対し、実に60%近い人が、Food and Drug Administration...(農林水産省みたいなやつかな?)に決定して欲しいと考えているようです。

自分たちの意見が反映される住民投票が良いといった人は8%だそう。

 

アメリカの研究者は信頼されていますねー。

しかし同時に、一般人の他人事感もかいま見える結果です(^_^;)

 

論文の著者曰く、科学政策決定において消費者の意見はあてにならない!?

この論文では、 考察において、一般市民が専門的な知識を得ることの難しさを指摘しています。また、考察の中にこんな一文がありました。

"Our results here indicate that consumer polls are not an adequate proxy for the decision of wheather a mandatory label should be required."

拙訳;我々の結果は、消費者の声が(食品の)表示を義務付けるべきか否かを決定するための適切な委任先では無いことを示している。

 

つまり、食品に遺伝子組換えだの何だの表示を義務付けるために消費者の意見を聞いたって、そんなん当てにならねぇよ、って思われちゃったわけです。

食品を口にするのは消費者なのに、消費者は専門家任せ、そして専門家たちは「あいつらあてになんねーよ」って消費者に対して思っている…なんだかそれって悲しくない?

 

論文と今回の結果を比べてみよう!

ではもう一度、今回のアンケートの結果に戻りたいと思います。

改めて、無効票と思われる「結果が見たい」を弾いた結果を見てみましょう。*5

 

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質問① 有効票のうち49%の人が遺伝子組換え生物を含む食品に表示を求めています(有効票数747)。

半数を切りましたね。私の感想としては、思ったよりも低い。みんな、私が想像していたよりも遺伝子組み換え食品について安全だと思っているのだな、と思いました。

アメリカと比べたら圧倒的に低いですし、びっくりです。

遺伝子組み換え食品の安全性については、厚労省が資料を配布しています。商業的な課題はあるもの、食品としてはきちんと検査されていて安全だと考えていいと思います。

遺伝子組換え食品 |厚生労働省

 

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質問② 有効票のうち27%の人がDNAを含む食品に表示を求めています(有効票数684)。

この結果で面白いのは、「明記してほしくない」と回答した人が多いことですかね。気持ちがわかります。全ての食品に「この食品にはDNAが含まれています」って書いてあったら鬱陶しいですからね。
こちらは明記を求めない人が多数でした。解説付きのRTの影響もあるでしょうが、それでも、明記して欲しいと考える人は少数派だったんじゃないかな、と考えます。質問①と見比べても、半数を超えることはないだろう、というのが私の印象です。

 

こうしてみてみると、DNAについてある程度の知識がある上で、質問①に回答してくださったことがわかります。で、質問①の結果からは、半数以上の人が「遺伝子組み換え食品は食べても大丈夫」っておもっているのかな、と思いました。

これは仮説ですが、DNAについての知識があるから、必要以上に遺伝子組換え食品を恐れていないのではないか*6、と。これを検証するにはさらなる調査が必要ですね!

 

とにかく、今回の結果を見る限りでは、元の論文の筆者が結論づけたような、「消費者なんてどうせ何も分かってないんだ、当てにならねーよ!」っていう見解は、今回の回答者さんには当てはまらないなーと思って、とってもホッとしました!

 

研究者と一般人の適切な信頼関係を築こう!

専門家じゃない人、なんとお呼びしたら良いのか迷ったのですがひとまず一般人と呼ばせてください。

やっぱり、自分の身の回りの科学、食品なんかについて、自分が使うものなのに蚊帳の外に置き去りにされて、専門家に丸投げって、ちょっと怖いしさみしいじゃないですか?

それに、もしかしたら「あー、一般人なんてどうせ何もわからないんだから」って適当に法律決められちゃったり、変な商品売りつけられるのも嫌じゃないですか?

それに、研究者だって、新しい発見をした!やったー!って言う時に、報道されてみんながすげーすげー言ってくれたらすごい嬉しいし、何だこの研究って言われたらクッソー次に見てろよー!って奮起するんですよ。*7

 

一般人が、積極的に情報を取りに来てくれて、私達研究者をいい意味で監視していただけたら、科学と社会の、もっと良い関係が築けると思うんです。だからお願いします。

 

そしてもちろん、一次情報に触れる機会が多い私達研究者が、社会に向けてわかりやすく、でも正確に、最先端の科学を発信していくのが大事だろうなー、と思っています。

 

だーかーらー、ブログって良いよなぁ?

 

 

おわりっ

*1:一字一句正確ではないです。RTしていただいた方、ちょこっと見に行ってしまいました、すみません。。。全員では無いですが。

*2:ドコサヘキサエン酸。魚類等に豊富に含まれる不飽和脂肪酸の一種。一定の健康効果が認められることから、厚生労働省が一日あたり1gの摂取基準を設けている。

厚生労働省 食事摂取基準 2010年版 各論1-3 脂質 p87~89 参照

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4g.pdf

*3:ざっと見た感じ、企業からの資金提供は受けていなさそうです。

*4:McFadden and Lusk, FASEB J. 2016の情報を元に作製。対象はオンライン、電話を用いた被験者1,004名。内女性は53%。35%が学士保持者。収入の中央値は$40,000~$59,999。

*5:元の論文に比べて、今回のtwitterアンケートはつなぽんのフォロワーさんの協力をえて集計したため、被験者の偏りに留意していません。フォロワーさんは理系アカウントの方が多く、結果に偏りが生じている可能性は十分あります。

*6:よくわからない食べ物って怖いよね。私も口に入れたくない。。。

*7:私は論文が出るたんびにエゴサしてます