けがをしたマウスの骨格筋から分化多能性のある細胞が単離された件
いや、ちまたで話題ですね、STAP細胞が存在していたとか何とかいう記事が出たんですって?
引用?しませんよ、腹立たしい。
私は、Oさんについてはあまり責める事はしたくないのです。
共著者だって同罪だし、どのような経緯であのねつ造論文が作られてしまったのか、
私にはその経緯がわからないから、安全地帯から彼女に石を投げる行為はしたくはありません。科学の分野に戻ってこないのであれば、(多分戻って来れないでしょう)
もうそっとしておけば良いのではないのかと思っています。
本を書くのも自由です。私は買わないし読まないですが。
ただ、今回のデマ記事のように、アクセス数がのびるから、という理由でおもしろおかしくかき立てる記者の方や、それに対する反応をまとめて喜ぶアフィリエイトサイトには、正直いらだちを覚えます。それとも素でやってるのでしょうか…。
リツイートされてきた記事へのコメントで
「やっぱりOさんは騙されていたんだ!」みたいなコメントがあって、
体力がごりごり削られていっていたのですが、
ブックマークコメントをみて回復しました。みなさんありがとうございます。
さすがはてな民の皆さんは、情報リテラシーが高くていらっしゃいます。
今回、アメリカのグループが発表した研究内容が気になる方もいらっしゃるかもしれないので、簡単に内容をまとめたいと思います。
本記事ではSTAPとの違い等の説明はしない予定ですのであしからず。
本日紹介する論文はこちら。オープンアクセスなので誰でも読む事が出来ます。
Nature系列のオープンアクセス誌、Scientific Reportsに出た記事です。
去年の11月に公開されていますね。なぜ今頃になって記事がでたのでしょうか?謎。
論文の内容ダイジェスト
この論文は、マウスの足を負傷させた場合に出来るiMuSCと呼ばれる細胞たちに、分化多能性がある事を発見したという論文です。
ただし、けがをしたマウスでiMuSCという細胞集団が出来る事が発見されたのは2011年の論文(後述)で既に報告されており、iMuSCが筋肉や血管などの中胚葉組織に分化する、比較的高い多能性を持つという事はすでに分かっていたみたいですね。
今回の論文で初めて明らかになったのは、iMuSCが筋肉などを形成する中胚葉組織だけではなく、外胚葉や内胚葉組織にも分化できるという事です。
た だし、今回の研究では、iMuSCからES/ips細胞を使った時のようなキメラマウスを作成する事は出来なかったようです。ES細胞やips細胞は分化全能性を持っていて、ちゃんとした生 殖細胞に分化する事ができるので、マウスの受精卵にES/ips細胞を移植してやる事でES/ips細胞由来の細胞を持ったキメラマウスを作る事が出来る のですが、
iMUSCちゃん達は、ちゃんとした生殖細胞には分化できなかったようです。
つまり、分化多能性は持っているけど、分化全能性は持っていないと考えたほうがよさそうです。
研究の背景
同じ研究室の論文で、2011年に論文が出ています。
この論文では、ここでは詳細は省きますが、筋肉の特定の細胞集団だけを青く染め分ける手法を確立しました。この方法によって、けがをしたマウスの骨格筋中にiMuSCと呼ぶ細胞集団が出来ている事を見つけたのです。
色々調べたら、このiMuSCは内胚葉組織である筋繊維や血管に分化する能力がある事が分かりました。
iMuSCの発現遺伝子
前回の論文の結果を受けた今回のscientific reportsの研究では、iMuSCで発現している遺伝子を、ES細胞や他の幹細胞の発現細胞と比較しています(Fig.3 b, c)。その結果、分化全能性をもつES細胞とiMuSCはsox2、rex1などの遺伝子の発現量が高いという類似点を持っていて、ES細胞とiMuSCは似通った発現パターンを示すことがわかりました。
一方で、iMuSCには筋肉でよく発現するような遺伝子が高レベルで発現していることも分かりました。つまり、iMuSCはES細胞っぽい特性を持ちながらも筋肉としての特性も残している事が示唆されたのです。
iMuSCは分化全能性を持つか
Fig.4では、iMuSCの分化能について詳しく調べている。
マウスの受精卵にiMuSCを移植した場合に、胎生14日の状態では、iMuSC細胞を示すGFPの蛍光が見られました。つまり、胎生14日の時点ではキメラマウスとして発生している様子がうかがえるのです。
しかし、生まれてきた子ネズミの毛の色は、全て白色でした。iMuSCは毛並みが黒いC57BL/6J マウスから取った物で、移植先のネズミはBALB/cという毛並みが白いマウスの物ですので、キメラマウスが出来たならば、毛並みは白と黒が混ざった物であるはずですが、そうはなりませんでした。
つまり、ちゃんとしたキメラマウスは生まれなかったという事になると思います。
しかし、心臓や肺などの組織の中に、GFPで光る細胞がわずかに見られたというデータも筆者は示しており(Fig.4f)、キメラの作成が完全に失敗という訳でもないっぽい?
この辺は筆者らの解釈がかいてなかったような気がするので、今のところiMuSCがキメラマウスを作れるという解釈はできなさそうです。。。
さいごに
所感です。
前回の論文に引き続いて、医療分野の論文紹介になってしまいましたが、
この分野は本当にテリトリー外なのであまり自信が無い所もあります。
間違い等あればご指摘ください。
おわり
追記 2016/03/20 23:00頃
今回の木星通信の記事に関して、記事を書いた記者の方にも言及しつつ綺麗にまとめてくださっているサイトがありますのでご紹介します。
また、ちょっと古いですがこちらの記事も短く要点をまとめてくれています。
追記おわり