がん細胞はアミノ酸をエネルギーに増殖しているわけじゃないよ
はてぶの「学び」カテゴリで、この記事にブクマが一杯ついていたのですよ。
くそー、私の渾身のエントリーの20倍くらいブクマつけやがって悔しいぜコノヤロー。
と、元記事を見に行ったのですが、GIGAZINEさん、多分勘違いしてますよ。
「がん細胞はアミノ酸をエネルギーにして増殖いる」わけじゃなくて、
「分裂細胞がアミノ酸を材料にして細胞を作っている」と筆者たちは言っているのだよ。
もう、分野違うのに論文を読んでしまって悔しいのでGIGAZINEさんの間違いを指摘しつつ内容を少しご紹介します。
ちなみに、GIGAZINEの元記事になったMITのサイトはこちら。
あと、元論文はこちら。
http://www.cell.com/developmental-cell/fulltext/S1534-5807%2816%2930036-3
(購入しないと要旨しか読めません。それでも大体の内容はわかると思いますが。私は学内アクセスで読みました。)
GIGAZINEの記事の内容まとめ
GIGAZINEの記事の前半部を簡単にまとめると、
- 細胞分裂の際に、糖の一種であるグルコース(ブドウ糖)がエネルギー源になると考えられてきた
- MITの生物学者が行った研究により、がん細胞の分裂で最も大きなエネルギー源となるのはブドウ糖ではなくアミノ酸であることが判明した
- これは、がん細胞のエネルギー代謝を観察することで発見された新事実だ
- この研究はがん細胞の成長・分裂を抑制する新薬を開発するための新たな手がかりになる可能性を秘めている
こんな感じのことが書いてありますね。
これにまるばつをつけるなら、1は科学的に正しいですが、2と3は誤りです。4は、まぁあたりかな。
とりあえず、全然違う内容です。もしかして違う論文読んじゃったのかな?って言うくらい全然違う内容です。
みんな、目を覚まして!
元論文はエネルギー代謝を調べた研究じゃないよ
元論文が調べたのは、「細胞を構成しているのは何か?」であって、
「分裂の際に使われたエネルギーはなにか?」ではないのです。
この論文が載っているDevelopmental cellという雑誌は、
論文の内容の重要な部分を4つの文章にまとめたHighlightというものを提供してくれています。
論文のTop page に行けば誰でも読める内容です。ちょっと見てみましょう。
Highlights
- •Glucose and glutamine are not the sources of the majority of mammalian cell mass
- •Non-glutamine amino acids provide abundant carbon and nitrogen to proliferating cells
- •Non-proliferating mammalian cells exhibit variable degrees of cell mass turnover
- •Nutrient fates are determined, showing that glutamine contributes primarily to protein
http://www.cell.com/developmental-cell/pdf/S1534-5807(16)30036-3.pdf
以下私のショボい訳文 (結構意訳している)。
- グルコースとグルタミン(アミノ酸の一つ)は哺乳類の細胞を構成する主な材料ではない
- 分裂している細胞に対し、グルタミン以外のアミノ酸がたくさんの炭素(C)と窒素(N)を供給している。
- 分裂していない哺乳類細胞においては、細胞の材料の入れ替わり方の程度は細胞の種類によって異なる。
- 筆者らは栄養素が細胞でどのような運命をたどるかをしらべた。その結果、グルタミンは主にタンパク質になっていた。
GIGAZINEが取り上げてるのは最初の2項目だと思うんだけど、エネルギーのことは特に言ってないのだよね。
別にがん細胞だけがアミノ酸を使って細胞を作ってるわけでも無いよ
うえの訳文をみてもらうと分かる通り、この研究によって、がん細胞特異的な、がん細胞でしか起こっていないような現象が見つかったわけでは無いのです。
この論文では
H1299、A549、MDA-MB-468などのがん細胞の他に、
A172(非がん細胞)、MEF(マウスの非がん細胞)についても調べられていて、
がん細胞でない普通の細胞でも、細胞分裂の時に細胞に取り込まれる炭素は主にアミノ酸由来の炭素である事がわかったのですよ。
簡単に言ってしまうと、「哺乳類細胞の細胞分裂の時には、がん細胞であるかどうかにかかわらず、グルコースじゃなくてアミノ酸から細胞ができている」ということです。
ちなみに、がん細胞が細胞分裂の時に使うエネルギーはグルコースから取り出しているよ
論文の要旨の二文目にはっきり書いてあります。
Glucose and glutamine are the major nutrients consumed by proliferating mammalian cells, but the extent to which these and other nutrients contribute to cell mass is unknown.
"グルコースとグルタミンは分裂する哺乳類細胞において主に消費される栄養源であるが、グルコースとグルタミン、その他の栄養源が細胞の構成においてどの程度貢献しているかはわかっていない。"
と。
やっぱり細胞分裂の時の主要なエネルギー源はグルコースなんじゃねえか、適当なこと言いやがって。
(そしてブクマ一杯もらいやがって。)
論文の内容(前半部のみ)をまとめると
①背景
細胞分裂の際にエネルギー源として使われるのは、主にグルコースとグルタミンである。
でも、実際にグルコースとグルタミンが細胞の主な構成分子かどうかはわかっていないので調べてみよう。
②結果
グルコースもグルタミンも、炭素を含む化合物である。
グルコース、またはグルタミンの炭素にだけ印をつけて調べてみたところ、グルコースとグルタミンを合わせても細胞全体の炭素量の1/3程度にしかならなかった。
→もしかして、グルタミン以外のアミノ酸が細胞を作っているのでは?
グルタミン以外のアミノ酸の炭素に印を付けて調べてみたら、炭素量全体のうち、かなりの割合の炭素に印がついていた!
→ビンゴ!やっぱりアミノ酸が細胞を作っていたんだ!
まぁ、こんな流れかな、と思います。
ネット上の記事を信用しすぎるのは良くないよね。。。
私も、たまにGIGAZINEさんの記事は読ませてもらっていて、
自分が詳しくない分野の記事だと鵜呑みにしてしまっているのですが、
危険だなぁ。と思い知らされました。
今回のは結構ひどいような気がするけど。
科学系の記事は、大手の新聞社ですら「なんだこれ」な記事がよく出てくるので注意が必要です。
ああ〜、科学記事Gメンはやるまいと思っていたのに結局やってしまった。
良かったら、私の昨日書いたエントリーも読んでいってください。
この記事ほど難しくないよ。トリビアだよ。
おわり