つなぽんのブログ

生物学者♀のたまごつなぽんのポスドク日記。

けがをしたマウスの骨格筋から分化多能性のある細胞が単離された件

いや、ちまたで話題ですね、STAP細胞が存在していたとか何とかいう記事が出たんですって?

 

引用?しませんよ、腹立たしい。

 

私は、Oさんについてはあまり責める事はしたくないのです。

共著者だって同罪だし、どのような経緯であのねつ造論文が作られてしまったのか、

私にはその経緯がわからないから、安全地帯から彼女に石を投げる行為はしたくはありません。科学の分野に戻ってこないのであれば、(多分戻って来れないでしょう)

もうそっとしておけば良いのではないのかと思っています。

本を書くのも自由です。私は買わないし読まないですが。

 

ただ、今回のデマ記事のように、アクセス数がのびるから、という理由でおもしろおかしくかき立てる記者の方や、それに対する反応をまとめて喜ぶアフィリエイトサイトには、正直いらだちを覚えます。それとも素でやってるのでしょうか…。

 

リツイートされてきた記事へのコメントで

「やっぱりOさんは騙されていたんだ!」みたいなコメントがあって、

体力がごりごり削られていっていたのですが、

ブックマークコメントをみて回復しました。みなさんありがとうございます。

さすがはてな民の皆さんは、情報リテラシーが高くていらっしゃいます。

 

今回、アメリカのグループが発表した研究内容が気になる方もいらっしゃるかもしれないので、簡単に内容をまとめたいと思います。

本記事ではSTAPとの違い等の説明はしない予定ですのであしからず。

 

本日紹介する論文はこちら。オープンアクセスなので誰でも読む事が出来ます。

www.nature.com

Nature系列のオープンアクセス誌、Scientific Reportsに出た記事です。

去年の11月に公開されていますね。なぜ今頃になって記事がでたのでしょうか?謎。

 

論文の内容ダイジェスト

この論文は、マウスの足を負傷させた場合に出来るiMuSCと呼ばれる細胞たちに、分化多能性がある事を発見したという論文です。

 

ただし、けがをしたマウスでiMuSCという細胞集団が出来る事が発見されたのは2011年の論文(後述)で既に報告されており、iMuSCが筋肉や血管などの中胚葉組織に分化する、比較的高い多能性を持つという事はすでに分かっていたみたいですね。

 

今回の論文で初めて明らかになったのは、iMuSCが筋肉などを形成する中胚葉組織だけではなく、外胚葉や内胚葉組織にも分化できるという事です。

 

た だし、今回の研究では、iMuSCからES/ips細胞を使った時のようなキメラマウスを作成する事は出来なかったようです。ES細胞やips細胞は分化全能性を持っていて、ちゃんとした生 殖細胞に分化する事ができるので、マウスの受精卵にES/ips細胞を移植してやる事でES/ips細胞由来の細胞を持ったキメラマウスを作る事が出来る のですが、

iMUSCちゃん達は、ちゃんとした生殖細胞には分化できなかったようです。

つまり、分化多能性は持っているけど、分化全能性は持っていないと考えたほうがよさそうです。

 

研究の背景

 同じ研究室の論文で、2011年に論文が出ています。

journals.plos.org

この論文では、ここでは詳細は省きますが、筋肉の特定の細胞集団だけを青く染め分ける手法を確立しました。この方法によって、けがをしたマウスの骨格筋中にiMuSCと呼ぶ細胞集団が出来ている事を見つけたのです。

色々調べたら、このiMuSCは内胚葉組織である筋繊維や血管に分化する能力がある事が分かりました。

 

iMuSCの発現遺伝子

前回の論文の結果を受けた今回のscientific reportsの研究では、iMuSCで発現している遺伝子を、ES細胞や他の幹細胞の発現細胞と比較しています(Fig.3 b, c)。その結果、分化全能性をもつES細胞とiMuSCはsox2、rex1などの遺伝子の発現量が高いという類似点を持っていて、ES細胞とiMuSCは似通った発現パターンを示すことがわかりました。

一方で、iMuSCには筋肉でよく発現するような遺伝子が高レベルで発現していることも分かりました。つまり、iMuSCはES細胞っぽい特性を持ちながらも筋肉としての特性も残している事が示唆されたのです。

 

iMuSCは分化全能性を持つか

Fig.4では、iMuSCの分化能について詳しく調べている。

マウスの受精卵にiMuSCを移植した場合に、胎生14日の状態では、iMuSC細胞を示すGFPの蛍光が見られました。つまり、胎生14日の時点ではキメラマウスとして発生している様子がうかがえるのです。

しかし、生まれてきた子ネズミの毛の色は、全て白色でした。iMuSCは毛並みが黒いC57BL/6J マウスから取った物で、移植先のネズミはBALB/cという毛並みが白いマウスの物ですので、キメラマウスが出来たならば、毛並みは白と黒が混ざった物であるはずですが、そうはなりませんでした。

つまり、ちゃんとしたキメラマウスは生まれなかったという事になると思います。

しかし、心臓や肺などの組織の中に、GFPで光る細胞がわずかに見られたというデータも筆者は示しており(Fig.4f)、キメラの作成が完全に失敗という訳でもないっぽい?

この辺は筆者らの解釈がかいてなかったような気がするので、今のところiMuSCがキメラマウスを作れるという解釈はできなさそうです。。。

 

 

さいごに

所感です。

前回の論文に引き続いて、医療分野の論文紹介になってしまいましたが、

この分野は本当にテリトリー外なのであまり自信が無い所もあります。

間違い等あればご指摘ください。

 

おわり

 

追記 2016/03/20 23:00頃

今回の木星通信の記事に関して、記事を書いた記者の方にも言及しつつ綺麗にまとめてくださっているサイトがありますのでご紹介します。

enter101.hatenablog.com

 

また、ちょっと古いですがこちらの記事も短く要点をまとめてくれています。

bylines.news.yahoo.co.jp

 

追記おわり

 

ご報告 〜更新頻度が落ちます〜

こんばんは。つなぽんです。

ちょっと今日いろいろなことがありました。

 

まず、そもそも論文のリバイス中で忙しかったのですが

(ブログを始めた途端返ってきてしまった)、

それに加えて就職活動的な活動をしなければならない状況になってしまいました。

(くびになったわけではないのでご安心を。失敗してもポストは有ります、今のところ)

 

あと、始めは「匿名だし適当に書こう☆」とか気楽に考えていたブログなのですが、

意外と読者さんがついてくださったこと、

ツイッターで広まると結構たくさんの人に読まれるということを痛感いたしました。

 

そこで、なるべく記事はちゃんと書こうと考えるようになったことと、

あと単純に忙しくなっちゃったので、

更新頻度がガクッと下がることをご報告しようと思いこの記事を書きました。

 

ブログ楽しいのですが、食いっぱぐれるわけには行かないので、

腰を据えて就活とリバイスを頑張ろうと思います。

 

あ、ひとのブログは読みに行きますよ!

ブクマもスターも付けに行きますよ!

 

 

おわり

がん細胞はアミノ酸をエネルギーに増殖しているわけじゃないよ

はてぶの「学び」カテゴリで、この記事にブクマが一杯ついていたのですよ。

gigazine.net

くそー、私の渾身のエントリーの20倍くらいブクマつけやがって悔しいぜコノヤロー。

と、元記事を見に行ったのですが、GIGAZINEさん、多分勘違いしてますよ。

「がん細胞はアミノ酸をエネルギーにして増殖いる」わけじゃなくて、

「分裂細胞がアミノ酸を材料にして細胞を作っている」と筆者たちは言っているのだよ。

 

もう、分野違うのに論文を読んでしまって悔しいのでGIGAZINEさんの間違いを指摘しつつ内容を少しご紹介します。

ちなみに、GIGAZINEの元記事になったMITのサイトはこちら。

news.mit.edu

あと、元論文はこちら。

http://www.cell.com/developmental-cell/fulltext/S1534-5807%2816%2930036-3

(購入しないと要旨しか読めません。それでも大体の内容はわかると思いますが。私は学内アクセスで読みました。)

 

GIGAZINEの記事の内容まとめ

GIGAZINEの記事の前半部を簡単にまとめると、

  1. 細胞分裂の際に、糖の一種であるグルコース(ブドウ糖)がエネルギー源になると考えられてきた 
  2. MITの生物学者が行った研究により、がん細胞の分裂で最も大きなエネルギー源となるのはブドウ糖ではなくアミノ酸であることが判明した
  3. これは、がん細胞のエネルギー代謝を観察することで発見された新事実だ
  4. この研究はがん細胞の成長・分裂を抑制する新薬を開発するための新たな手がかりになる可能性を秘めている

こんな感じのことが書いてありますね。

これにまるばつをつけるなら、1は科学的に正しいですが、2と3は誤りです。4は、まぁあたりかな。

 

とりあえず、全然違う内容です。もしかして違う論文読んじゃったのかな?って言うくらい全然違う内容です。

みんな、目を覚まして!

 

元論文はエネルギー代謝を調べた研究じゃないよ

元論文が調べたのは、「細胞を構成しているのは何か?」であって、

「分裂の際に使われたエネルギーはなにか?」ではないのです。

 

この論文が載っているDevelopmental cellという雑誌は、

論文の内容の重要な部分を4つの文章にまとめたHighlightというものを提供してくれています。

論文のTop page に行けば誰でも読める内容です。ちょっと見てみましょう。

Highlights

 

  • Glucose and glutamine are not the sources of the majority of mammalian cell mass
  • Non-glutamine amino acids provide abundant carbon and nitrogen to proliferating cells
  • Non-proliferating mammalian cells exhibit variable degrees of cell mass turnover
  • Nutrient fates are determined, showing that glutamine contributes primarily to protein

http://www.cell.com/developmental-cell/pdf/S1534-5807(16)30036-3.pdf

以下私のショボい訳文 (結構意訳している)。

  • グルコースとグルタミン(アミノ酸の一つ)は哺乳類の細胞を構成する主な材料ではない
  • 分裂している細胞に対し、グルタミン以外のアミノ酸がたくさんの炭素(C)と窒素(N)を供給している。
  • 分裂していない哺乳類細胞においては、細胞の材料の入れ替わり方の程度は細胞の種類によって異なる。
  • 筆者らは栄養素が細胞でどのような運命をたどるかをしらべた。その結果、グルタミンは主にタンパク質になっていた。

 

GIGAZINEが取り上げてるのは最初の2項目だと思うんだけど、エネルギーのことは特に言ってないのだよね。

 

別にがん細胞だけがアミノ酸を使って細胞を作ってるわけでも無いよ

うえの訳文をみてもらうと分かる通り、この研究によって、がん細胞特異的な、がん細胞でしか起こっていないような現象が見つかったわけでは無いのです。

 

この論文では

H1299、A549、MDA-MB-468などのがん細胞の他に、

A172(非がん細胞)、MEF(マウスの非がん細胞)についても調べられていて、

がん細胞でない普通の細胞でも、細胞分裂の時に細胞に取り込まれる炭素は主にアミノ酸由来の炭素である事がわかったのですよ

簡単に言ってしまうと、「哺乳類細胞の細胞分裂の時には、がん細胞であるかどうかにかかわらず、グルコースじゃなくてアミノ酸から細胞ができている」ということです。

 

ちなみに、がん細胞が細胞分裂の時に使うエネルギーはグルコースから取り出しているよ

論文の要旨の二文目にはっきり書いてあります。

Glucose and glutamine are the major nutrients consumed by proliferating mammalian cells, but the extent to which these and other nutrients contribute to cell mass is unknown.

"グルコースとグルタミンは分裂する哺乳類細胞において主に消費される栄養源であるが、グルコースとグルタミン、その他の栄養源が細胞の構成においてどの程度貢献しているかはわかっていない。"

と。

やっぱり細胞分裂の時の主要なエネルギー源はグルコースなんじゃねえか、適当なこと言いやがって。

(そしてブクマ一杯もらいやがって。)

 

論文の内容(前半部のみ)をまとめると

①背景 

細胞分裂の際にエネルギー源として使われるのは、主にグルコースとグルタミンである。

でも、実際にグルコースとグルタミンが細胞の主な構成分子かどうかはわかっていないので調べてみよう。

 

②結果

グルコースもグルタミンも、炭素を含む化合物である。

グルコース、またはグルタミンの炭素にだけ印をつけて調べてみたところ、グルコースとグルタミンを合わせても細胞全体の炭素量の1/3程度にしかならなかった。

→もしかして、グルタミン以外のアミノ酸が細胞を作っているのでは?

 

グルタミン以外のアミノ酸の炭素に印を付けて調べてみたら、炭素量全体のうち、かなりの割合の炭素に印がついていた!

→ビンゴ!やっぱりアミノ酸が細胞を作っていたんだ!

 

まぁ、こんな流れかな、と思います。

 

ネット上の記事を信用しすぎるのは良くないよね。。。

私も、たまにGIGAZINEさんの記事は読ませてもらっていて、

自分が詳しくない分野の記事だと鵜呑みにしてしまっているのですが、

危険だなぁ。と思い知らされました。

今回のは結構ひどいような気がするけど。

 

科学系の記事は、大手の新聞社ですら「なんだこれ」な記事がよく出てくるので注意が必要です。

ああ〜、科学記事Gメンはやるまいと思っていたのに結局やってしまった。

 

 

良かったら、私の昨日書いたエントリーも読んでいってください。

この記事ほど難しくないよ。トリビアだよ。

 

tsunapon.hatenablog.com

 

 

おわり

皮膚の培養細胞はどこから来たの? 〜基礎研究を支える培養細胞の話〜

再生医療。私が大学生になった頃は、この言葉がこんなに一般的になるなんて思ってもみませんでした。

ヒトからとった細胞を培養してそれを本人に移植する。

昔から細胞シートレベルでの話は聞いたことが有りましたが、

最近の再生医療分野の目覚ましい研究成果の報告を聞いていると、

患者さん本人の細胞を培養して作られた肺や心臓などの器官を移植できるようになるのも

そう遠い未来ではないのかなぁ、と期待してしまいます。

 

 

今日のお話は、この再生医療を含めた医療分野を支えてきた、ある培養細胞のお話です。

その名もNHDF。正常ヒト皮膚線維芽細胞という細胞です。

多くの再生医療、がん研究などの医療研究の研究室で古くから使われてきた、

歴史あるメジャーなヒト由来の培養細胞です。

 

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これは私が大学4年生の時の話。

 

「ねぇねぇつなぽん、私達が使っている培養細胞、どこから取られたものか知ってる?」

共通実験室で慣れないゲルの撮影に挑んでいた私に、クリーンベンチ*1を使い終わった他研究室の先輩が話しかけてきた。

 

その研究室は医療関係の研究をしていて、

ヒトの皮膚の培養細胞、先の"正常ヒト皮膚線維芽細胞"を主に使って実験していた。

 

 私「え?ヒトの皮膚からとったんじゃないんですか?ヒト皮膚線維芽細胞というくらいなんだから。」

と答える私に

先「でも考えてみてよ、普通のヒトのその辺の皮膚なんて、簡単には取ってこられないじゃない?」

と先輩。

 

それもそうかぁ。確かに「実験に使うから皮膚ください」なんて言われて

ホイホイ差し出す人が居るとも思えない。

 

それに、正常ヒト皮膚線維芽細胞というくらいだから、炎症が起きていたりガン化しているものは使えない。つまり、皮膚がん患者から採取したものではなさそうだ。

 

私は落としてばらばらになったゲルのピースを組み合わせながら考えていたが、

正常ヒト皮膚線維芽細胞がどこからやってきたのか、全く検討もつかないでいた。

 

 

思案を巡らせる私に、

先「あるんだよなー、皮が余ってるところがさぁ、人の体には。」

先「ヒントはねー、NHDFは、男の人の細胞だよ☆」

すごく嬉しそうな表情でヒントをくれた。

 

不自然なほど嬉しそうだ。

何だその表情は。

 

そして私ははたと気づいた。

ん?男の人…?皮が余っている…だと…??

まさか。。。まさかまさかまさか!

 

全国の医療系研究室で毎日のように使われ!

私が学生実習の時に継代させてもらったあの培養細胞ちゃんたちは!

 

男性のデリケートゾーンから取られた細胞)だったというのだろうか!

 

おそるおそる聞いてみる。

私「もしかして。。。あそこの皮ですか。」

先「うん☆そうだよ~。 ただし、赤ちゃんのだけどね☆」

 

アメリカの文化とNHDF

たしかに、皮膚が余っているといえば余っているヒト(♂)も居るだろう。

でも、まさか。まさかその余剰分が培養細胞になっていたなんて。

 

半信半疑で培養細胞のカタログを開くと。そこには確かに書いてあった。

Normal Human Dermal Fibroblasts (NHDF), juvenile foreskin

ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)|タカラバイオ株式会社

訳; (正常ヒト皮膚線維芽細胞, 乳幼児の包皮)

 

他のサイトを見ても、

ヒト包皮線維芽細胞
ヒト包皮線維芽細胞は新生児の包皮から採取した線維芽細胞です。 

正常ヒト初代培養細胞 - 皮膚・毛髪関連 | Dermal Cell / Hair Cell System | コスモ・バイオ株式会社

 

まじか。まじであの皮なのか。

 

でも、一つ疑問が残る。

なぜ、新生児のものなんだ?

 

 

 

 

それには、日本人にはあまり馴染みのない文化、

"割礼"が関係していた。

 

私はこのへんの文化の知識がなく、やぶへびになりそうなので、wikiさんをそのまま貼り付けておく。

キリスト教徒が約8割を占めるアメリカ合衆国では、宗教との関連ではなく、衛生上の理由および子供・青少年の自慰行為を防ぐ目的などの名目で、19世紀末から包茎手術が行われるようになり、特に第二次世界大戦後、病気(性病、陰茎がんなど)の予防に効果があるとされ、普及するようになった。これには、医療従事者に割礼を行う宗教(主にユダヤ教)の信徒が多く、包皮切除に対する違和感が低かったため、という指摘もある。

1990年代までは生まれた男児の多くが出生直後に包皮切除手術を受けていた。アメリカの病院で出産した日本人の男児が包皮切除をすすめられることも多かった。しかし衛生上の必要性は薄いことが示されるようになり、手術自体も新生児にとってハイリスク[3]かつ非人道的との意見が強まって、1998年に小児科学会から包皮切除を推奨しないガイドラインが提出された。これを受け、包皮切除を受ける男児は全米で減少してきているが、21世紀に入ってからもなお6割程度が包皮切除手術を受けている

  

割礼 - Wikipedia

つまり、アメリカでは新生男児の包皮を切除する文化があり、そのために新生児の包皮が医療廃棄物として廃棄されているという背景があるのだ。

そのため、研究に用いる皮膚の培養細胞を安定的に供給できるらしいのである。

 

男児が可哀想とか、なんで割礼なんてやり始めたんだという疑問やクレームについては、つなぽんはお答えしかねるので誰か他の人に聞いてください。m(*_ _)m

 

とにかく医療分野の研究は男児包皮由来のNHDFの利用により支えられてきた

もちろん、医療の発展に寄与してきた培養細胞はNHDFだけでは無いのだが、

NHDFの医療研究への寄与は非常に大きかったのだ。

細胞シート作製や、抗癌剤の効き目の測定など、さまざまな医療研究の研究シーンでこのNHDFは活躍してきた。

今後、もし治療の際に再生医療抗癌剤のお世話になることがあったなら、

どうか医療研究に貢献してきたアメリカの男児たちに感謝しながら治療を受けて欲しい。

私も、今後NHDFを扱う機会に恵まれたら、その由来に思いを馳せながら

優しく大切に扱おうと思っている。(理学部なのでヒトの細胞は基本的に扱わないけど)

 

今日もどこかの研究室で、男性のデリケートゾーン由来のNHDFが活躍していることだろう。

 

 

 

ひとまずおわり。

 

 

以下蛇足。

実はNHDFには乳幼児包皮由来のものの他に、成人由来のものも存在する。

 

正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)

未成年者の包皮または成人の様々な部位から採取した皮膚(顔,胸, 腹部,大腿部など)から分離された線維芽細胞です。

正常ヒト線維芽細胞 | 前駆細胞/正常細胞/その他細胞 | フナコシ

こちらは、詳細を知らないので間違っていたら申し訳ないのだが、

おそらく献体からの提供ではなかったかと記憶している。

 

成人由来の皮膚も、乳幼児と同様の部位からの医療廃棄があるのではないかと予想したりしているのだが、

研究には使われていないのかな。。。どうなのかな。。。

 

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フリー写真素材ぱくたそ [ モデル 大川竜弥 ]

 

(あと、NHDFについてですが、私の知る限りで細胞シートの作製や抗癌剤の副作用を調べる研究で使用されている論文を読んだことがありますが、

実際はヒト正常細胞としてもっと一般的に使われているのかもしれません。

つなぽんはヒトの細胞を扱ったことが無いので、間違い等あればご指摘願います。>_<)

 

追記;3/16 17:10頃

もっと知りたい!と思った方のための外部リンクを置いておきます。

①Skin Regeneration & Stem Cells

skinstem.exblog.jp

東京医科歯科大学の准教授の先生が書いておられるブログです。

内容が少しむずかしいですが、とても興味深いブログを書いていらっしゃいますのでぜひ。

 

②PDF バイオよもやま話(生物工学第92巻 p110~)Green博士の再生医療

https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9203/9203_yomoyama.pdf

埋め込めなかった。。。

再生医療ベンチャー企業、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの井家先生が著した、再生医療に関するコラムです。

こちらも生物に馴染みのない人には少し難解な内容になっているかも。

 

 

本当におわり。

 

 

 

*1:培養細胞にばい菌がはいらないように工夫された実験台

女性研究者のワークライフバランス ~私、トップ研究者は諦めようかな…~

私はなんとなくダラダラと研究を続けていたら博士課程まで来て学位をとってしまった口なのですが、

流石にここまで研究を続けると、「この分野でトップを取ってやるぜ!」という気持ちも湧いてくるわけですよ。

最近になって漸く、研究のやり方みたいなものが自分の中で出来上がってきたような気もするし、実験もうまくなってきた気がするのです。

バリバリ実験して、良い結果出して、結果をいい雑誌にのせて〜〜なんて、どんどん欲が出てきたのを自分でも感じるのですが。

 

が。

 

女性って、妊娠、出産っていうライフイベントがあるんですよね〜。

実は今の彼と付き合うまではあまり結婚とか出産を現実のものとして捉えてなかったというか、「いつかするのかな?」程度に思っていた私なのですが。

年齢的なこともあって真剣に結婚出産について考えてみると、ふと気づいたんですよ。

あれ…これこのまま研究してたら絶対子育て無理じゃねぇ?

と。

 

実験系生命科学者の労働時間(つなぽんの場合)

本当に人によると思うのですが

私の一日の研究室滞在時間は大体12~3時間程度です(通常時、食事休憩含む)。

家と研究室との往復が計1時間、睡眠時間は長めで一日7~8時間程度、

残りの3~4時間を入浴、洗濯、掃除と、ブログを書くなどの余暇に当てています。

土曜日もこんな感じで、日曜日だけ6時間くらいラボに滞在して残りは寝ています。

 

別にこれは研究室の中で特別ハードというわけでも無くて、

うちの研究室の他の助教さんなどのスタッフ(私以外は全員男性です)も大体こんなものです。(子持ちの方は日曜は休んでいらっしゃいますが)

たぶんもっとハードなラボも有ります。

 

でもこれ、私が一人暮らしだったり、子持ちのスタッフさんにはお子さんの面倒を見てくれる奥様がいらっしゃるから成り立つわけですよ。

こんな一日12時間ラボにいてしかも休日も仕事しているような人の子供、保育園だって見てくれるわけ無いですよね?

そんなことしたら保育士さんが一日13時間とか働かなきゃいけなくなって、日曜日も出勤になって、過労死しちゃいます!

 

 

世の女性研究者はどのようにワークライフバランスをとっているのか?

そこで、昨日のエントリーでもご紹介した東大のアンケートを見てみます。

検索結果

調査対象は、東京大学で働く女性教育スタッフ(教授、准教授、助教ポスドクなど)で、任期の有無や年齢、学科の区別なく集計したものです。

つまり生命科学系だけでなく、人文科学や教育、物理や工学、数学など幅広い分野の女性スタッフから結果を得たものです。

 

まずこちらの図を御覧ください。

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東京大学女性研究者アンケート 調査結果報告書 11/34ページ。図37の情報を元につなぽんが編集しました。

配偶者(パートナー)については、「いる」 と回答したのは 209 名(59.0%)であり、その うち、「別居」は 46 名(22.1%)であった。

え。。。別居とか嫌なんですけど。

というか別居するくらいなら結婚しないほうが気楽でいいや。。。(^ω^;

22%って高くないっすかね?別居率。

 

ちなみに次のページにはこんなことが書いてありました(12/34ページ目)。

子どもが「いる」と回答したのは、119 名(33.7%)であった。子どもの人数は、1 人が最も多く 57.6%であり、次いで 2 人(38.1%)であった。また、子どもの年齢としては、0~3 歳未満の割合が、 子どもを持つ研究者の 31.1%と最も高かった。 

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(図39,40の情報を元に作製)

 え、待って。私子供2人くらい欲しいんですけど。。つまり、東大の女性教員/研究員のうち子供を2人持てる人は約13%なわけですね?

この数字はどうなのかな?まだ若い特任研究員も含まれているだろうから、これからお子さんを産む人も居るだろうけど。でもちょっと少ないような。。。

 

 

育休取得については

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(図44を参考に円グラフにまとめた。)

育休取得なし70.6%…

ひー。産休はとったのだろうか。。。流石にとったよね(^ω^;

出産して一ヶ月位で復帰したのかな。。。ひー。無理。。。

 

 

ここでまとめを見てみましょう(11/34ページ目)。

〈ライフ関連項目の概要と考察〉

東大の女性研究者の約 6 割は配偶者がいて、その半数以上が研究者同士のカップルであった。

また、 配偶者と別居中が 2 割を超えており、一般的に研究者夫婦の同居割合が低いという状況は、東大の女性研究者にも言える。

子どものいる研究者は 3 分の 1 で、そのうち半数以上は子どもの人数が 1 人で あった。また、子どもの年齢が就学前である研究者の割合が高いことが明らかとなった。

育児休業の 取得率は全体的に低く、さらに職位が高くなるほど取得率は低い傾向が見られる。ここ数年は育児休業を取得する若い女性研究者が増えているのではないかと考えられる。しかし、育児休業を取得した 場合にも半年以内で復帰した者が多い。

行政、民間、事業所内などの保育園の定期利用だけでなく、 親族による保育やベビーシッターも定期的に利用しながら早急に復帰している女性研究者の実態が窺えた。

1 日の時間配分では、研究・教育時間の占める割合が最も高く、研究・教育以外の業務と合わ せると、平均して 11~12 時間程度は仕事をしていると考えられる。余暇・趣味時間も 2 時間程度は 確保し、6~7 時間の睡眠時間は取れている研究者が半数を超えていた。一方で睡眠時間が 4 時間以下 と回答した研究者もおり、健康が心配される。

「ワーク・ライフ・バランス」については、半数の研究者が取れていると考えていることが明らかとなった。

 

…(^ω^;;)

それ、ワークライフバランス取れてるんですかね。。。

あの。私、東大の研究者とかにならなくていいっす。全然普通でいいっす。もう一生ポスドクでいいっす。 それとも他の大学行っても同じですか?

なら私マジで。。。マジでテクニシャンでいいので。

もうすこし子どもと旦那と居たいっす。

 

 

男性研究者は女性研究者に比べて家事や育児に割く時間が短い

内閣府にも参考になりそうなデータが有ったのでこちらも確認してみましょう。

平成17年版男女共同参画白書|内閣府男女共同参画局

 

この白書には、男性/女性研究者が育児や家事に費やす時間についてのデータが載っていましたよ。

そうそう、こういうデータも見たかったんです。

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男女共同参画白書(概要版)平成27年版 第11図より編集して作製

http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h17/gaiyou/html/zuhyo/G_11.html

 

元データでは、より細かい時間に区切ってありましたが、差が見やすいように2時間以下、2時間以上に分けて表示させてもらいました。(元データへはリンクから行ってください)

これを見ると、男性研究者が家事に割く時間は2時間以下が多数なのに対し、女性研究者は2時間以上家事に費やしていることがわかります。

男性研究者は、他の家族が家事をしてくれているんでしょうね。一方、女性研究者は研究をしながら、家事や育児、介護においても(多分)中心的役割を担っているのではないかと推察されます。

 

スーパーウーマンかよ。

私、家事も育児も研究もなんて、そんな器用なことできる気がしないんですが

 

ちょっと研究者の高みを目指すのはやめとこうかしら…(^ω^;

私、結婚するからには旦那さんと一緒に暮らしたいし、

子供は二人くらい欲しいし、

育児だって出来る限りしたいです。

 

もし自分に子供ができたら、

保育園や幼稚園で友達はたくさん作って欲しいし、

自分が働いているところを子供に見て欲しいという希望が私にはあるので、

専業主婦になりたいとは今のところ思っていないのですが。

 

でも、フル稼働しないと論文を出せず、次の就職先を見つけられない今の環境だと、

結婚して子供を作ることは考えられないな、というのが私の今の気持ちです。

 

うまくライフワークバランスの折り合いを就けられる研究テーマを探すことが、

今後数年間の私の目標になるかなーと思っています。

 

うーん、いつまで続けられるのかなぁ。

せめて今は、全力で頑張ろう!授業も子育てもない今が、一番研究に取り組める時期かも知れないから。

【予言】もしあなたが女性研究者として大学に残るなら、あなたは男性研究者と結婚するでしょう

当たる確率は、、、半分以上だとは思うな。

こんばんは。つなぽんです。

 

実はこのブログ、数日前からgoogle analyticsを導入させてもらっているのですよ。

(訪問者の人数や滞在時間などを解析するアプリケーションです)

で、めっちゃ面白いなーと思いながら分析結果を眺めていたのですが。

 

拙ブログを覗きに来ていただいている方の男女比

male(男性) → 81 %

female(女性) → 19 %

 

あれ…。なんか思ってたのと違う。このブログ、女性研究者つなぽんのブログなのに、

世の中の半分くらいは女性なはずなのに、

女受け超悪い!

 

背景画像に虫の画像を使ったのが悪かったのでしょうか?

(ちなみに私が撮影した写真なので著作権はつなぽんに帰属します。クジャクチョウ日本亜種、学名Inachis io geisha。大好きな蝶です。一緒に写っている花はキオン。撮影地は山梨県。)

それとも研究者というトピックが女性の心を掴まなかったのでしょうか?

 

ブログを始めたからには、やっぱり男性にも女性にも来て欲しい!

というわけで、本日は女性向けの内容になっております。が、男性の皆さんもよろしければ楽しんでいってくださいませ。

 

私の周りの女性研究者、ほとんど結婚/交際相手が男性研究者なのですが

タイトル通りですね。

私の研究している機関にも女性の研究主催者はたくさんいらっしゃいます。どなたもとてもかっこよくて、憧れてしまいます。

そんな女性研究者の先生方の旦那様はというと。。。

「あ、〇〇大の✕✕先生、苗字が違うけどご夫婦だったんですね!」とか、

「あ、この論文筆頭著者と第二著者の苗字一緒だわ。もしや、、やっぱり。」

みたいなことが非常に多いです。

独身の先生か、非研究職の旦那様をお持ちの女性教授も少数ながらいらっしゃいますが、私が直接お会いした女性教授のうち、7割くらいは旦那様も研究者でいらっしゃいます。

 

私の同期も何人か結婚しているのですが、アカポスに残った女友達はやっぱり7割くらいが研究者と結婚/交際しています。

ご多分に漏れず私自身も、今現在の交際相手は同じ分野の研究者です。

このままいけば私も研究者を配偶者に持つ女性研究者の仲間入りをするのでは。。。と予想していますがどうなるでしょうか?w

 

実際、女性研究者は男性研究者と結婚する人が多いのか?

私の周りにたまたま男性研究者と結婚するひとが多いのかなー、と思って、何か資料がないか調べてみたら、それらしきものを見つけたのでご紹介します。

 

東京大学女性研究者アンケート 調査結果報告書(PDF)

http://kyodo-sankaku.u-tokyo.ac.jp/activities/model-program/whitepaper/documents/QuestionnaireforFemaleResearchers.pdf

東京大学の女性研究者に対するアンケート結果です。(何故か埋め込めなかったよ。)

 

まず調査対象と調査方法については以下のとおり(3/34ページ目)。

1) 調査対象 2008 年 12 月 1 日時点で東京大学に在籍する教員(教授、准教授、講師、助教、助手;有期雇用 を含む)および特任研究員、外国人研究員 684 名

2) 調査方法 2009 年 1 月中旬に個別に学内便にて 8 ページの無記名自記式調査用紙を配布した。 1 月末までに学内便にて男女共同参画オフィスに返送するよう依頼し、2 月上旬には対象者全員 に再度、調査協力への依頼文書を配布した。

 

つまり、東京大学に在籍している女性教育スタッフ全員に対して、文系/理系、任期の有り/無しの区別なく行った調査のようです。

 

問題の、配偶者が研究者かどうかについては以下の様なデータが有りました(11/34ページ目)。

配偶者の職業としては、「国公立の大学教 員・公的機関の研究者」が 76 名(36.4%)、「私 立の大学教員・民間機関の研究者」が 40 名 (19.1%)であり、研究者が半数以上を占めて いた。

だそうです。実に既婚者の女性研究者のうち55.5%の人の旦那さんが研究者なんですね!私の周りの観測データよりはやや少ない印象ですが、それでも半分以上が研究者と結婚しているってすごいです。

 

というわけで結論

東大のデータを元にすれば、女性研究者の配偶者は高確率で研究者!

統計的処理はしていないですけどね。

 

なんで女性研究者は研究者と結婚するのか

先に示しました東大のアンケートにはそのへんの分析は書いていなかったので、ここからは完全に私の想像なのですが。

 

多分、スクリーニングの結果だと思うんですよね。

 

つまりどういうことかというと、

 

  1. 研究者を志す女性のうち、彼/配偶者に研究者を持つ女性が優先して研究者として生き残った
  2. 研究者を志す女性のうち、研究者以外と付き合っていた人は破局し、最終的に研究者と付き合うことになった。

 

というスクリーニングが行われているのでは無いかと思うんです。(周りを見ているとそんな感じがする。)

ちなみに私は1+2ですね。前に付き合ってた人と別れなければ多分研究者やめてたんじゃないかと思うし、結局なんだかんだ別れちゃいましたしね。それで研究者と付き合ったと。

 

だれか、私のこの仮説検証してくれないかしら〜(他力本願)。

 

 

女性研究者を目指す皆さん、今もし、研究者以外の人と付き合っているなら、

将来、その人と別れるか、研究者を諦めるかの二択を迫られることになるかも…?

と、不吉な予言をして今日はおしまいにします。

(まぁ、半分強ですけどね、データ的には。)

 

 

最後に、本エントリーで触れた

東京大学女性研究者アンケート 調査結果報告書(PDF)

http://kyodo-sankaku.u-tokyo.ac.jp/activities/model-program/whitepaper/documents/QuestionnaireforFemaleResearchers.pdf

ですが、これに絡めてもう一個記事を用意していますが、とてもおもしろいです、いろいろな意味で。ぜひご賞味ください。

 

 

おわり

 

ボスとの不和を乗りきれるか? 〜学内ハラスメントの話〜

今日のテーマはちょっと暗いお話です。

 

「研究室ではボスが絶対!ボス(教授)の言うことを聞かないと学位をもらえない」

という話をよく耳にします。私が学部生時代は、半信半疑でこの話を聞いていました。

 

が。実際に大学という場に身を置いて10余年…。ボスとの関係がこじれると学位がもらえないというのは、少なからずあるものなんだな、と実感しています(^ω^;

いや、ほとんどの教授は学生に学位を取らせようと頑張っていると思うのですが、そうでない研究室というのは存在するのだなと。学位を諦める学生を前に、無力感を募らせてきました。

 

自分の心の整理のためと、少しでも大学研究室のあり方を考える切っ掛けになればと思い、この記事を投稿します。

 

なお、本日取り扱うハラスメントについては男女の区別はないので、男性の皆さんにも関係があるものとして読んでいただければと思います。

 

研究室内で生じるハラスメント

ハラスメントという単語を聞いてみんながぱっと思いつくのは、セクシャル・ハラスメント、いわゆるセクハラでは無いかと思います。

が、少なくとも、教授もスタッフも、セクハラに対してはかなり気を使っている印象を受けます。私の周りのコミュニティでは、セクハラが原因で学校に来れなくなった例は聞いたことがありません。(多少の際どい発言はありますが、セクハラに対する理解の広まりも手伝ってか、当事者や周りが「今の発言はダメでしょ」と言える空気があるように思います。)

 

研究室内で問題になるのは、セクハラよりも寧ろパワー・ハラスメントやアカデミック・ハラスメントに該当するものだと思います。こちらに関しては何度かその現場を目撃してしまいました。

 

一体どのようなパワー・ハラスメントが起こっているかというと、私が知っている範囲では以下の様なものを見聞きしました。生物系以外の研究室の話も含まれています。

 

  1. 学生に「学位を出さない/卒業させない」と脅す(メールを見せてもらいました。まじめに研究していましたが、彼氏との結婚を報告したことを堺にハラスメント被害に遭いました)。
  2. 学生の意思に反し、学振などの助成金の推薦を書かない (これは伝聞ですが、その研究室の学生は本当に誰も学振を出していなかったので怪しいと思っています)
  3. 学生の指導を行わない(論文投稿後リバイスが返ってきてから指導放棄された友人がいます)

 

怖い、ヤバイ\(^o^)/。

1. の被害にあった友人は学位審査以外の学位要件を満たしておりましたので、学位審査の審査員から指導教員を除外するという方法でギリギリ学位を取得して、今アカポスで働いています。3.の友人は論文が不採用となったために学位取得を諦めて、民間企業で働いています。

 

なお、人前で「君は本当に馬鹿だな」とか、「あったま悪いね〜、そんなんで学位取れると思ってんの?」とか高圧的に本人の人格を否定することを居る教授も居るのかもしれませんが、私はこの被害にあった人は見たことがないです。

 

研究を志す人はみんな頭が良いので、セクハラにせよパワハラにせよ、わかりやすく「ハラスメント」だと思われるような言動は行わないように思います。

むしろ、上の例で示したように、加害指導者と被害学生の二人の間で完結してしまうような、より周りに目立たない、表に出てこない形で深刻なハラスメントが発生しているケースが有るのでは無いかと考えています。

 

  

ハラスメントセンターが機能していない大学院の実態

上記のような事態になったら、(ブラックでない)一般企業であれば、ハラスメントセンターがうまく仲介して、部署替え、配置換えなどで対応するのでは無いかと思います(私は民間に行ったことが無いので想像です、すみません)。しかも、配置換え後も多少の給与の変動はあれど、給与は変わりなく支払われるはずです。(ですよね?)

 

大学でも同様に、ハラスメント被害に遭ったことが証明できれば、ハラスメントセンターが担当教員を変更することで対応する場合が多いです。

万が一の際の指導教員変更を円滑に進めるために、「副指導教員制度」を導入している学科もあります。

 

しかし、修士はともかく博士課程まで進んでからハラスメントに巻き込まれた場合、これを解決するのはかなり難しいです。

なぜなら、一つの大学が似たような研究テーマを取り扱う研究室を複数擁していることは殆ど無いので、指導教員の変更はすなわち研究テーマの変更を意味するからです。他大に似たような研究テーマを扱う研究室があったとしても、ハラスメントセンターが大学の垣根を超えて対応してくれる例は聞いたことがありません。また、同分野だと教授同士が仲が良かったり、教授間の力関係いろいろがあったりするのも面倒なところです。

 

学位を出さない、指導放棄、などの問題は、学位取得直前に問題が深刻化します。学位取得前となると27歳。そこから新たにテーマを変えて論文投稿となると。。。多分学位取得時には30を超えるでしょう。その間ずっと無給で学費を払い続けるのは現実的ではありません。

 

大学院でのハラスメントは

  1. 加害者となる教員が高度な専門性を持っているため換えが効かない
  2. 被害者となる学生は学位取得という切り札を握られているため非常に立場が弱い
  3. 研究室の変更で対応した場合にも、加害側である教員はほとんど被害を被らないのに対し、学生は経済的、時間的に甚大な被害を被る

 

という特長から、被害者の泣き寝入りになりやすい構造があるのです。辛い。

 

 

不幸な学生にならないために学生ができること

「大学の構造が悪い」「改革が必要だ」ということは簡単ですが、実際に被害にあった場合にはそうも言っていられません。学生ができる対策を未熟な私なりに考えてみたいと思います。

 

①研究室選びは慎重に

再三行っていることではありますが、研究室選びは慎重に行ってください。ちゃんと学生に学位を取らせる指導力がある研究室なのか調べましょう。研究室見学には必ず行ってください。

 

②自分の実力を上げ、指導者への依存度を下げる

これは難しいですが必要なことです。そしていつかは必ず克服しなければなりません。研究室配属された最初から、受け身で指導を受けるのではなく、「5年後には自分が独力で論文を出すんだ」という意識を持って研究に取り組むことが、自衛にもつながります。(私はそんなに意識高くはなかったですが。指導者に恵まれました。)

 

③研究の環を広げ、似た分野の他研究室や他大研究室にも顔を利かせておく

学会などに参加して、他研究室の知り合いを作りましょう。教授などとも話す機会があればガンガン話して交流を深めておくと良いと思います。お互いの研究内容を知っていれば、研究室を変更した際も対応がし易いです。万が一の事態には、大学の垣根を超えて「出向」という形で指導を受けられるかもしれません。

 

 

最後に

本エントリーを書くにあたって、ちょっと感情的になってしまって抑えながら書いたつもりなのですが、変なところがありましたらごめんなさい。

「研究室内で生じるハラスメント」の項目で挙げた例は、内容的にあまり具体的に書けることでもないので、信頼性が担保できていないと自分でも感じています。自分の体験ならば赤裸々に書くことができたのですが。

 

自分は本当に恵まれてラッキーなところで研究をさせてもらっているなー、と感じています。大学院での研究環境が改善され、学生が集中して研究に取り組める環境を作る一助になればと願っております。

(もし「大学院でのハラスメントの問題点」や「学生が取りうる自衛策」で他にまだ考えつくものがあったら、追記させていただくかもしれません)。

 

 

おわり